「むかしむかし」ではじまる話は「めでたしめでたし」で終わってほしい。
例えば、町のどこかですれ違っても気づかないのかもしれない。
でも俺は今でも君に似た背格好の人を見ると目で追っちゃうんだ。
君のお気に入りだったワンピース。
君によく似合っていたキャスケット。
君がよく履いていたスニーカー。
似たような物を身に着けている人を見ても目で追っちゃう。
君の幻影を探しているかのように。
君自信を探しているかのように。
今、君がどんな顔をして、どんな洋服を着て、どんな人と一緒にいるのか、俺には全然わからない。
なぜか消さずにいるままの君の連絡先がそのままなのか変わっているのか、それすら確かめるのが怖い。
なぜ消さないかは聞かないで。
深い意味は、たぶん、ないから。
別れるって決まったとき、こんなことになるなんて思ってもみなかった。
悪いのは全部、俺だけど。
後悔しているわけじゃないよ。
ただ、ごめんね、と言いたいだけ。
君は俺の知らない誰かと一緒にいるんだろう。
誰といようが俺には関係ない。
君が選んだ人だから。
気になることは、ただひとつ。
君はたくさん笑ってる?
俺がこんなこと言える立場じゃないのはわかってる。
大きなお世話だということもわかってる。
俺の勝手な想いだよ。
君にはいつも笑っていてほしいから。
いつもは無理でも、笑っている時間のほうが多いことを願ってるから。
会いたいけれど、会いたくない。
会ったところで、君となにを話せばいいのだろう。
俺の中で君は、ずっとあのころのままだから。
俺はそれでいいんだ。
だから今度の同窓会、君が参加するって風の噂で聞いたから俺は欠席するよ。
君はもう俺のことなんかどうでもいいかもしれないけど、俺はそうじゃない。
あのころのことを思い出すと、ひとりでニヤけてしまう。
君は違うだろうけど、俺は楽しかったから。
忘れていることはたくさんあるだろう。
でもそれより覚えていることのほうが多い。
ここまで来たら、もう忘れることはない。
しょうもない男なんだ、俺は。
君にとっては忘れたい過去かもしれないけど、俺にとっては忘れたくない過去。
迷惑な話だとは思うけど、許してほしい。
すべてを君と比べてしまうんだ。
君と別れたあとに付き合った人すべてを、君と比べてしまう。
ごめんよ。
誰にも言わないから許してほしい。
どこかですれ違ったら、君は俺に気づくかな?
俺はきっと気づくだろう。
君は俺に話しかけるかな?
俺はきっと話しかけないだろう。
君と俺。それぞれ違う道を歩いている。
平行じゃないかぎり、きっとどこかで交差するだろう。
それが今日なのか、10年後なのか、100年後なのかはわからない。
交わったときどうなるのかはわからない。
俺はきっと君に気づく。
俺はきっと君に話しかけない。
でもきっと君のことは目で追う。
そのとき君が笑っていれば、それでいい。
あとは君に聞こえないように、こう言うよ。
ごめんね、って。
ありがとう、って。