特別な力なんて必要ない。当たり前の力がほしい。
君は俺のことを見てくれない。
なぜなら、俺は平凡な男だから。
なにか特別な能力があれば、君は俺を見てくれるのだろうか。
君は俺のことを見てくれない。
でも俺は君のことをしょっちゅう見ている。
気になるから、しょうがないでしょ。
話しかけることができいから、しょうがないでしょ。
見ることしかできないから、しょうがないでしょ。
これだけ君のことを見ていれば、君は気づいているだろう。
だからたまに君は俺のことを見てくれる。
これだけ視線を送っていれば、誰だって気になるからね。
どんな理由であろうと、君が俺のことを見てくれるのはうれしいんだ。
うれしいけど。
ありがたいけど。
俺は目を逸らしてしまう。
君が俺を見ようとした瞬間、合うか合わないかの間際、目を逸らす。
そのときのスピードは、きっと、マッハを超えている。
マッハを超えるということは、音速を超えるということ。
これは俺の、特別な能力、なんだ。
平凡な俺が持っている、唯一の、特別な能力。
この目を逸らすスピードは、人の限界を超えている。
誰にも真似できない力なんだ。
俺はある意味、特別なんだ。
なんの役にも立たない力だけど。
君が俺のほうを見てくれて、目が合ったとしよう。
そのとき俺が笑顔を見せるなり、話しかけるなりすれば、こんな能力は必要ない。
だって目を逸らす必要はないから。
でも俺にはそれができないんだ。
ほかの人にはできるのに、君にだけできないんだ。
この能力は、俺のしょうもなさが生んだ副産物なんだ。
君にだけ発動する、なんの役にも立たない力。
音速を超えた目線外し。
音速を超えるということは音があとから聞こえてくるということ。
マッハを超えているからか、目を逸らしてうしろを向いているからか。
君の声がうしろから聞こえるよ。
気持ち悪い、って…。