「奇跡」という文字を見続けると「奇跡」と見えなくなる。
君の肩を抱く。
なんか、しっくり、くる。
俺の腕の長さと君の肩幅。
このジャストサイズ。奇跡だ。
君と並んで歩く。
俺の腕の付け根に君の頭がすっぽり。
収まりがいい。
君がヒールを履けば、君の頭はちょうど俺の肩の高さ。
奇跡だ。
腕枕をする。
君の頭の大きさが俺の胸と肩のあいだにすっぽり。
収まりがいい。
君の頭をポンポンする。
俺の手の大きさと君の頭の大きさの比率が、奇跡的。
俺の好きな立ち位置は左。
君の好きな立ち位置は右。
最初からそうだった。
お互いに、心地良い。
俺はネガティブ。
君はポジティブ。
足して2で割ればちょうどいい。
奇跡だ。
これは、きっと、奇跡。
俺にとっての黄金比率を形にすると、君ができあがるんだ。
そんな君と出会ったことを、奇跡と言わないでなんと言うんだ。
だから君といると、居心地が良いのかもしれない。
俺と君は故郷が違う。
年齢も違う。
育った環境も文化も違う。
性格も違う。
価値観も違う。
共通点はほとんどない。
でもこの地で出会い、お互い惹かれ、一緒にいる。
なにか見えない力が働いたんだ。
見てごらん、まわりを。
こんなに人がいるんだよ。
これでもほんの一部なんだよ。
これだけ多くの人の中から君の存在が浮かび上がり、俺は君を知った。
そして俺と君は惹かれ合った。
見えない力が働いて。
言葉にすると陳腐に聞こえるけど、本当にそう思ってる。
奇跡だって。
そもそも、両想い、って奇跡だから。
そう考えると、この世には奇跡が溢れている。
だから両想いは奇跡なんかじゃないかもしれない。
これだけ世の中に溢れている両想いが奇跡じゃないとしたら。
俺はそれ以上の奇跡を追い求める。
俺と君は奇跡なんだっていうことを証明するために。
ずっと両想い。
これは奇跡でしょ。
こんなこと、そうそうないでしょ。
そう思える人と出会い、死がふたりを分かつまで時を重ねることができるなんて。
奇跡と言わずしてなんと言う。
でも俺と君のあいだでこれだけ奇跡的なことがあるのなら、これからどんなことが起こってもそれは奇跡なんかじゃないのかもしれない。
奇跡じゃなくて、ほかのもの。
俺と君は、奇跡なのか奇跡じゃないのか。
その答えは今はわからない。
答えが出るのは、ずっとあと。
死がふたりを分かつとき。
だから答え合わせは一緒にしよう。
見えない力の正体を、一緒に暴こう。