今が良けりゃ、まあいいか。
ちょっと距離近くない?
ドキドキしてるの、バレてない?
からだが熱くなってるの、バレてない?
そんなの知られたら、かっこ悪いだろ。
ちょっと肩触れてない?
良い香りがするね。
シャンプー?香水?柔軟剤?
こんなこと考えてるって知られたら、気持ち悪いだろ。
だから俺は気づかないフリをする。
なんてことないよって。
触れてないかのように。
距離感なんて気にしないよって。
焦らないように、上ずらないように。
今まで通り、なにも変わらないように、君と話しているんだ。
「この人かっこいいよね」
君が指差した雑誌には男前の写真が。
俺との共通点はほとんど、ない。
性別が同じくらいしか、ない。
確かにかっこいいよ。
でも、俺のほうがそいつより君との距離が近いから。
だって、肩触れてるから。
「こっちのほうがかっこよくない?」
せめてもの抵抗。
本当は君が指差してる男のほうがかっこいいけど。
こっちのほうがまだ俺に……全然似てないや。
「えーっ?」
君の声がすぐ横から聞こえる。
君の吐息がかすかに触れる。
横目でチラリと君に目をやる。
君も俺を見てくれた。
気づいてる?
顔赤いの。
気づいてる?
肩が触れてることに気づかないフリをしていること。
肩が触れてること、君は気づいてる?
肩が触れてること、君はどう思ってる?
肩が触れたままの意味を教えてくれる?
こんなこと考えてるって知られたら、かっこ悪いだろ?
やっぱり教えてくれなくてもいいや。
そのかわり、もう少しこのままでいさせてくれよ。