誕生日にふさわしい言葉は、きっとほかにもある。
誕生日おめでとう。
「おめでとう」ってなにに「おめでとう」?
ひとつ歳を重ねたこと?
君は歳を重ねることを気にしているでしょ。
俺は全然気にしてないのに。
気にしすぎだよ。
去年の誕生日から今日まで、無事に生きて来られたこと?
それはあるかもね。
当たり前のように誕生日を迎えられるって、当たり前じゃないから。
良いことも悪いこともあっただろうけど、それは当たり前だから。
誕生日なんて、ただの数字、ただの区切りなんだ。
俺からすれば、「おめでとう」より「ありがとう」のほうが正しい。
無事に今日を迎えてくれてありがとう。
産まれてきてくれてありがとう。
俺と出会ってくれてありがとう。
俺を選んでくれてありがとう。
こんな恥ずかしいこと、死んでも言わない。
まあ、死ぬ直前に君が俺の目の前にいてくれたら言うかもしれないけど。
君と出会うまではこんなこと思わなかったよ。
君の両親に、友人に、先生に、先祖に、近所の人に、街ですれ違った人に、電車でとなりに座った人に、エレベーターで一緒になった人に。
君に関わったすべての人に言いたい。
「ありがとう」って。
でも俺は思うんだ。
どこまで言えばいいんだって。
俺は君の一部しか知らないんだって。
君と関わってきた人のほとんどを、俺は知らないから。
寂しくなるんだ。
もっと君のことを知らないとって。
もっと君のことを見ないとって。
気持ち悪いだろ?
だから君には言わない。
代わりに、これから誕生日ごとに君の思い出を聞くことにするよ。
もちろんプレゼントは用意するよ。
君には内緒で考えているんだ。
喜んでくれたらいいな。
「ありがとう」とは言わないよ。
「おめでとう」は言うよ。
本当の気持ちは「ありがとう」なんだ。
俺にいろんなものを与えてくれて「ありがとう」。
誰かに「ありがとう」って言いたい気持ちを与えてくれたから。
知らない誰かにでさえ。
街で道を譲ってくれた人に。
電車で座るスペースを作ってくれた人に。
エレベーターで開ボタンを押して待っていてくれた人に。
「ありがとう」って思えるようにしてくれたのは、君なんだ。
そんな俺を、君はいいねって言ってくれるんだ。
「ありがとう」。
君のおかげなんだ。
誕生日おめでとう。そして、ありがとう。