簡単な計算。わかりやすくていいね。
お花見行こうよ。
君はこの季節になると必ず言う。
行きたくないな。
理由はただひとつ。
人混みが苦手なんだ。
みんな考えること一緒だから。
だから人が集まる。
この時期にしか行けないから、なおさら。
気持ちはわからないでもないけど、人の多さは尋常じゃない。
人が多くないときに行きたいけれど、俺みたいな凡人にはちょっと無理だ。
桜が見たいんだったら、名所じゃなくても穴場と呼ばれるところはたくさんあるし、なんなら近所でも見ることだってできる。
でも君はそこじゃ嫌なんでしょ?
理由はわかっているよ。
ミーハーなわけでもブランド志向なわけでも見栄っ張りなわけでもない。
知ってるよ、君の本心。
出店が目的でしょ?
桜をちょっと見ながら、いろんなもの食べたいんでしょ?
桜をちょっと見ながら、ビールを飲みたいんでしょ?
だから名所じゃないと、ダメなんだ。
穴場や近所だと出店がないからね。
人が多く集まるから、出店が出る。
出店があるってことは、人が多く集まる。
小学生でもわかる計算だ。
近くに名所はないから、車で行くことになる。
君はビールを飲むから、俺は飲めない。
俺は飲まないのに酔っちゃうんだ。
酒じゃなくて人に。
ああいうところで飲むビールや食べるものがやたらと美味いのは認めるよ。
でも、人が多すぎる。
しょうがないけど、多すぎる。
そして人に酔っちゃう。
気持ち悪くなる。
むかしから、そうなんだ。
花見か……。
行きたくないな。
街を歩いていたら時折見える桜もきれいだけどね。
俺にはそれで充分だけど。
君は満足しないんだね。
君は行く気満々だから、俺は俺で行く理由を考えてみる。
酔っぱらった君はかわいい。
おいしそうに食べる君もかわいい。
たまに桜を見てきれいと言っている君もかわいい。
それを見ている俺は、なにも言わないけれど、笑っていられる。
あともうひとつあったよ。
君と手をつなぐことができる。
普段は恥ずかしいからって言い訳して手をつながないけれど。
人混みに紛れないように君と手をつなぐことができる。
どさくさに紛れて君と手をつなぐことができる。
よし、やっぱり行こうか。
よく考えてみたら、メリットのほうが多かった。
これも簡単な計算だった。
日曜日の天気をチェックしておくよ。