青い傘だから、ここだけ晴れてる。
こんなに距離が近いんだ。
ひとり用だからね。
相合傘だなんて、ドラマや漫画でしか知らないよ。
こんなことになるなんて。
雨が降るなんて、聞いてなかったから。
走って帰ろうとしたら君が声をかけてくれた。
折り畳み傘で小さいけど入る?って。
驚いたよ。
君がかけてくれた言葉もそうだけど、それを素直に受け入れた俺にも。
こんなに近いけど、呼吸と鼓動が早くなっていること、バレてないでしょ?
鼓動は無理だけど、呼吸はゆっくり大きくしているから。
音をなるべくたてないように。
おかげで会話があんまり入ってこない。
君はやさしいね。
傘に入れてくれたこともそうだけど、俺のからだが半分近く濡れていることに気づいて俺のほうに近づいてくれたでしょ。
気のせいじゃないよね?
だって肩が触れる回数が増えたから。
お互いなにも言わず、気づかないふりをしているけれど。
俺は君が近づいてくれた分、また離れてしまった。
ごめんよ。そういう意味じゃないんだ。誤解しないでおくれ。
君に悪いかなって。
恥ずかしいなって。
後悔してるよ。
ああ、情けない。
相合傘までしておいて、情けない。
君にとってはそうじゃないかもしれないけど、俺にとっては重大な出来事なんだ。
だってドラマや漫画でしか見たことないシチュエーションだから。
しかも相手は君。
出来すぎたストーリーだ。
夢じゃないよね?
だって濡れたところは冷たいから。
だって君と触れた場所にはちゃんと感覚があるから。
相合傘までしておいて、情けない。
本当はもっと近くに寄りたいんだ。
本当は肩を抱き寄せたいんだ。
本当は手を繋ぎたいんだ。
傘を持っていても、手を繋ぎたいんだ。
そして君が少しも濡れないようにしたいんだ。
この空間は俺と君だけのもの。
誰にも邪魔されたくない。
でももう少しで君の家に着いちゃう。
いつもよりゆっくり歩いたのに。
君も俺に合わせてくれただろ?
ありがとう。
濡れちゃったから、帰ったらすぐ風呂に入ってよ。
あっという間だったな。
幸せな時間と空間だったよ。
こんなに君と近くにいられるなんて思ってもみなかったから。
どんな話をしたっけ?
緊張しすぎてあんまり覚えてないや。
ただ楽しかった、とだけ覚えてる。
もう少しで着いちゃうよ。
少しずつ近づいているの、気づいてる?
君の家にも、そして君にも。
ちょっとだけ勇気を出してみたから。
明日も急に雨が降らないかな。
次こそは、もっと勇気を出してみるよ。