嘘のあくびをしていると本当のあくびが出る。
眠い……。
思わず言っちゃう。
でも本当に眠いかと言われれば、そうでもない。
なんというか…。
「眠い」っていうのは挨拶みたいなものであり、会話の合図みたいなものである。
君が目の前にいて、眠いわけがない。
「なにしてたの?」って君が言ってくれれば、こっちのものだ。
寝苦しかったから。ワールドカップを観ていたから。ゲームをしていたから。
いくらでも理由は出てくる。
「何時に寝たの?」って君が言ってくれれば、こっちのものだ。
少しだけ遅めの時間を言うよ。
「何時に起きたの?」って君が言ってくれれば、こっちのものだ。
少しだけ早めの時間を言うよ。
睡眠不足だから。
わかってる。わかってるよ。
寝不足アピールをする奴の対処に困ることは。
なんて返せばいいんだ?
誰かの看病でもしていない限り、自己責任でしょ。
寝苦しいとかワールドカップ観てたとかゲームしてたとか。
知らないよ。
早く寝ればいいだけの話。
わかってるんだ。
でもほかの奴は知らないけど、俺の君への寝不足アピールは少し違う。
本当にアピールしたいのは、そこじゃないんだ。
寝苦しいとかいろいろ言うかもしれないけど、本当に伝えたいことはその先にあるんだ。
寝不足アピールは会話のきっかけ。
そこから話を広げたい。
だから君の返しがとても重要なんだ。
さっきのような返をしてくれたら、最高。
心の中で感謝するよ。
にやけるかわりに、あくびをするよ。
君に本当に伝えたいことは寝不足アピールの先にある。
寝不足の本当の理由は違う。
今日は君に会えるとわかっていたから。
君のことを考えていたんだ。
どんな会話をしようか。
どうやって君との距離を縮めようか。
そんなことを考えていたら、目が冴えてしまった。
全然眠れなくなった。
俺の妄想の中では、会話はけっこう弾んでいたよ。
今とは違って。
しょうもないトークで申し訳ない。
返す言葉に困るよね。
こんなはずじゃなかったんだ。
昨晩のシミュレーションだと。
いつか本当の理由を君に言えるようになったらいいな。
笑いながら。
隣で寝そべりながら。
まあ、先の話はあとにしよう。
今はこの微妙な空気を変えることに必死だから。