人様のバッグの中身はなんだかんだで気になる。
俺は君のバッグを持たないよ。
だって、君のバッグだから。
街のいたるところで目にする光景。
彼氏が彼女のバッグを持っている。
まあ人様はいいけれど、俺は持たないよ。
君が今日持っているバッグ。
今日の俺の服装で持つと変でしょ?
どう見ても合わないでしょ。
君が今日持っているバッグ。
今日の君の服装に合わせて選んだんでしょ?
いつもこのバッグだからとか何にでも合わせやすいからとかではないはず。
今日のバッグはその類のものではない。
君が今日持っているバッグ。
なにが入っているの?
財布、携帯、メイク道具……。
これだけじゃないはずだ。
このバッグのサイズに、これだけのはずはない。
俺の想像を超える何かが、きっと入っているんだ。
君のバッグは君が持てばいい。
俺のために選んでくれた部分も、少なからずあるでしょ?
コーディネートを考えたり。
メイクをしたり、直せるようにしたり。
君自身のためではあるとは思うけれど、俺のためでも少しはあるでしょ?
だって俺と会うんだから。
だから俺は君のバッグを持たない。
俺が君のバッグを持ったら、君の努力や思いやりが無駄になってしまうから。
俺の腕は二本しかない。
君のバッグを持っていたら、一本しか使えなくなる。
右手が埋まってしまう。
左手は君と手を繋ぐって決めているから。
俺は君のバッグを持たない。
買い物して荷物が増えたら、もちろん俺が持つ。
そうしたら君のバッグを持つ手はなくなってしまう。
荷物が増えたから君のバッグは持てない、って格好悪いから。
だから最初から持たない。
俺はリュック派。
両手が使えるから。
左手は君と手をつなぐため。
右手は君のバッグ以外の荷物を持つため。
なにかあったら右手に持った荷物を放り投げて、君を守る。
右ききだから、右手が自由になったほうがいいから。
君のバッグは放り投げられないから。
俺はリュック派。
背負うことに慣れていたいから。
これから君と一緒にいて、背負うものが増えたときのために。
からだも気持ちも鍛える。
君の不安や悩みや葛藤や悲しみや幸せを、一緒に背負うことができるように。
俺は君のバッグを持たない。
君のほかのなにかを、持てるようになるため。
君のほかのなにかを、背負えるようになるため。
君がバッグを選ぶとき、少なからず俺のことを考えていてくれるから。