初心は忘れがち。
最初は、おはよう、と言うことだけが願いだった。
君に、おはよう、と言うことだけが俺の願いだった。
君に、おやよう、と言えるようになった。
そこに行き着くまで、どれほど大変だったか。
君は知らないだろう。
でも次第に、おはよう、だけでは満足できなくなった。
少しずつ、少しずつ、距離を詰めていく。
どんな小さなきっかけも逃さないように。
おはよう以外にも君と会話をするようになった。
きっかけは何だったのか。
今となっては覚えていない。
これを言おう!と決めてから、そのタイミングだけを探し続けた。
俺は君に何と言ったのだろう。
君も覚えていないだろう。
会話がはじまるきっかけなんて、そんなもの。
ただ、タイミングだけは逃さないように。
そのタイミングが訪れたら、ありったけの勇気を振り絞って。
0を1にするのに比べれば、1を2にするのも2を3にするのも簡単なこと。
気づけば俺と君はいろんな話をするようになった。
おはよう、すら言えなかったのに。
おはよう、と言うことだけが願いだったのに。
おはよう、から、おやすみ、まで。
俺の願いはどんどん増えていく。
いつだって君に願いを叶えてほしいと思ってしまう。
叶えば叶うほど、新たな願いが増えてしまう。
そのときは満足するけれど、時間が経てば満足できなくなる。
食欲と一緒だ。
腹が膨れて、腹が減って、また膨れて、減っていく。
おはよう、と言うことは当たり前になった。
おはよう以外の会話も。
今では君と、おやすみ、を言えるほどに。
ここまで辿り着くのにどれほど大変だったか。
君は知らないだろう。
おはよう、から、おやすみ、まで。
俺の願いは叶ったはずなのに。
満足できない俺がいる。
叶った願いの数はどんどん増えるのに、それ以上に新たな願いが生まれてくる。
どこまでも俺は欲深い。
おはよう、だけを望んでいたはずなのに。
おやすみ、から、おはよう、までも望んでしまう俺がいる。