たった一度だけ君に泣いてほしいとき。
あるところに、おじいさんとおばあさんがいました。
ふたりはとても仲良く暮らしていました。
おじいさんはいくつになってもおばあさんのことが大好きで、いくつになってもおばあさんと手をつないでいたいと思っていました。
恥ずかしいから。
おばあさんはいつもそう言って、おじいさんと手をつなぎませんでした。
しかし、ある日。
おじいさんが差し出した手を、おばあさんは握り返しました。
歳取ったな。
おじいさんはおばあさんを見て笑いました。
お互いにね。
おばあさんも笑いました。
いろいろあったねえ。
そうね。
ありがとう。
こちらこそ。
おじいさんはずっとおばあさんの手を握っています。
おじいさんもおばあさんも、ずっと笑っています。
君のおかげでいろんな願いが叶ったよ。
私もよ。
おばあさんは両手でおじいさんの手を包み込みます。
でも、ひとつだけ叶わなかったな。
なに?
君と手をつないで、もう一度外を歩いてみたかった。
そっか。ごめんね、いつも拒んで。
いいんだ。一番大きな願いは叶いそうだから。
なに?
おばあさんの目には涙がうっすら浮かんでいます。
君と手をつないで、君の顔を見て死ねること。
おじいさんは、にこにこ、笑っています。
おばあさんは、えんえん、泣いています。
迷惑ばかりかけてごめんよ。
最後までわがままでごめんよ。
君より先に死ぬことも私の願いだったんだ。
ありがとう。
おばあさんは、えんえん、泣いて、泣きながら笑いながら頷きました。
おじいさんはそれを見て、笑いながら、目を閉じました。
君とそんな最期を迎えたい。
そう言ったら、君は笑うかい?