はしって走って疲れてもはしょれない。
急がなくちゃ、急がなくちゃ。
君の元へしっかり届けるために。
溢れ出てくる君への想い。
どうしたら君へきちんと届くのだろう。
今の気持ちを忘れないうちに。
一刻でも早く君のところへ。
少しでも早く君の元へ。
忘れるはずはないけれど、万が一っていうことがあるから。
はしる、はしる。
筆がはしる。
止まることを知らず、握力との戦い。
頭の中ではどんどんいろんな言葉が浮かぶけれど、いつまで経っても筆は追い付かない。
周回遅れの言葉ばかり書いてしまう。
だから、急ぐんだ。
今のリアルタイムの現状の進行形の言葉を書きたいから。
はしる、はしる。
筆がはしる。
伝えたいこと書きたいことは、どこまでも。
そんな想いを込めて書いたラブレター。
はしり書きのラブレター。
読めないよ、なんて言わないで。
すべてとは言わないけれど、少しだけでも読み取ろうとしてほしい。
想いも言葉も、ぎっしり詰まっているから。
譲れないことは誰にだってある。
ケンカするほど仲が良いって言うけれど、できたらケンカはしたくない。
良いことなんてひとつもない。
後から仲直りして振り返ったら笑い話になる可能性はあるけれど、そんな話術は持っていない。
それでも俺と君は、悲しいけれどケンカをしないわけではない。
なぜケンカをするのか考えてみた。
きっかけは些細なことばかりで覚えていないけど、きっと譲れないことに触れたからなのだろう。お互いに。
譲れないことは譲れない。
たくさんあるわけじゃなく、たったひとつのことでも。
それくらい譲ればいいじゃない、と言われても。
譲ってばかりだと、逆になにも信用できなくなる気がする。
譲れないことは誰にだってある。
俺も君も。
そこに触れたら、お互いの主張が出てきて当然。
ケンカすることは悪いことじゃないのかもしれないけれど、本音を言えばケンカはしたくない。
俺が譲れないことに対して、君の言うことも一理ある。
それでも譲れない。
俺の言うことに理がないとしても、譲れないことはある。
譲れないことを譲らないことで、君に勝ちたいわけではない。
もちろん、負けたいわけでもない。
そこは五分五分で。
それが一番、居心地が良いから。
譲れないことを懸けたケンカに勝ち負けはないとしても。
きっと俺はいつも負けている。
勝敗は五分五分ではなく、圧倒的。
一番譲れないことは、たったひとつだけだから。
そのためなら、俺はいつでも負けを受け入れる。
それなりの理由を考えてみるけれど。
今日は調子が良い。
なぜなら、いつもより君がかわいく見えるから。
どこがどう違うのかは、わからない。
それでも確かにいつもよりかわいい。
原因をいろいろ探ってみるけれど行き着く答えは、調子が良いから。
俺の?
君の?
俺は調子良いよ。
君はどうだい?
調子が良いからいつもよりかわいいのかい?
勘違いしないでよ。
いつもかわいくない、という意味ではない。
いつも以上にかわいい、という意味だから。
今日はどうしてか、やたらと。
毎日見ているのに。
同じような毎日でもどこか違うように。
調子良かったり、そうじゃなかったり。
飽きることはない。
俺は調子良い。
君も調子が良いのかもしれない。
いろんな日が巡り巡ってきたから。
そんな日があっても、おかしくないでしょ?
お揃いの時計では物足りない。
お揃いのものは恥ずかしい。
君もそうだろ?
面積が大きければ大きいほど人目につきやすいから。
いつもは誰も俺たちのことなんて見ないのに。
お揃いの服を着たらみんな見てくるだろう。
俺は恥ずかしがり屋だから。
みんなに見られると緊張して、うまく歩くことすらできないだろう。
ゆっくり誰の目も気にせず、君と歩きたい。
でも少しだけ、気持ちはわかる。
お揃いのものを身につけたいっていう気持ち。
ほんのちょっとだけ。
だから、いろんなところへ行こう。
一緒にいろんなところへ。
そして、身につけよう。
いろんな思い出を、ふたりの思い出を。
からだに刻み込んで、いつかこの先一緒に思い出して笑い合おう。
これからいろんなところへ一緒に行こう。
お揃いの服は恥ずかしいし、お揃いの時計では物足りないし、お揃いのアクセサリーは本番までとっておくと決めているから。
一緒にいろんなところへ行こう。
お揃いの靴を履いて。
俺は恥ずかしがり屋だから。
そのくらいが、ちょうどいい。
好きか嫌いかどっちでもないか。確率は3分の1。
噛めば噛むほど味が出る。
君はそういう人。
どこが?
なんて自覚のない君は言う。
どこも。
俺はそう言う。具体的な例なんて、ありすぎてわからない。
スルメみたいなこと?
君は不服そうに言う。
スルメっていうより、ガムかな。
俺は棚からガムをひとつ取る。
これ、3つ入っている内のひとつだけが酸っぱいんだって。
懐かしい。買おうよ。
いいよ。
コンビニから出ると、すぐに袋を開けた。
ひとつは俺、ひとつは君。残りひとつはふたりともセーフだったらじゃんけんしよう。
同時に口に入れる。
セーフ。
俺は両手を横に広げる。
すっぱ!
君は口をしぼませた。
歩きながらガムを噛みながら、家へと向かう。
ちょっと!くちゃくちゃ音立てないでよ。
君は俺に言う。
ごめん、ごめん。
口を閉じてゆっくり噛む。
君は音を立てることなく、もう酸っぱくなくなったガムを噛む。
かばんからティッシュを取り出し、ガムを吐き出す。
はい。
ガムをくるめたティッシュを俺に差し出す。
いらないよ。
のけぞる俺を見て、君は笑う。
そういうところがガムみたい。
俺はティッシュを受け取る。
どういう意味?味がなくなるってこと?
君は不満気。
そういうわけじゃないよ。
俺は笑う。
あとひとつ。じゃんけんする?
俺は残りひとつのガムを取り出す。
いいよ。
君は立ち止まり、腕まくりする。
そういうところがガムみたい。
そういうところが、好きなんだ。
「絶対」の価値は変動制。
君の好きなところ。
今からなら、絶対に朝まで言える。
今はまだ夕方だけど、その自信はあった。
でも言いはじめたら、まだ5分も経っていないのに言葉を探している。
こんなはずじゃなかったのに。
君が洋服選びで白か黒か迷っている。
絶対に白の方がいいって。
聞かれたわけではないけど、俺は言う。
だって白の方が君に似合うから。
絶対に。
そう思っていたのに。
今では黒でも良かったかな、なんて思ってしまう。
もちろん、君には内緒。
こんなはずじゃなかったのに。
俺の根拠のない、絶対。
でも、その時は本当に絶対だと思っている。
君は信じていないだろうけど、それは揺るぎない事実。
だからそんなに問い詰めないで。
だからそんなに冷たい目で見ないで。
絶対、と言う俺の気持ちをわかってほしい。
確かに、絶対だったんだ。
絶対に絶対だったんだ。
あの時は。